微量のキラル源を用いる触媒的不斉反応は、キラルビルディングブロックを供給するための最も理想的な方法論のひとつです。しかしながら、強固な不斉空間を構築することを目的に、動的な自由度の小さなキラル源が用いられてきました。一方、私たちの開発した鎖状有機触媒は、従来の分子触媒と異なり、適切な外部刺激を選択することで同一フラスコ内で異なる触媒機能を発現することができます。これまでに、i) レトロフリー触媒反応、ii) 連続エナンチオ多様性触媒反応、iii) エントロピー制御型触媒反応、iv) プログラム型連続不斉反応をはじめとする数種の動的反応を開発しました。さらには、温度を上昇させるほど選択性が向上する、酵素に類似したエントロピー(ΔΔS‡) 制御機構を明らかとしました。
Reviews: Chem. Commun. 2012, 48, 7777–7789; J. Synth. Org. Chem. Jpn. 2015, 798–809.
Representative papers: Angew. Chem. Int. Ed. 2010, 49, 7299–7303; Angew. Chem. Int. Ed. 2010, 49, 9254–9257.
遷移金属錯体触媒は、d軌道の分裂により、特徴的な高次構造をとることが知られています。しかしながら、従来の研究では反応収率や選択性を指標に、金属塩と不斉配位子の種類や混合比を調整する試行錯誤を重ねることで有用な触媒を見つける場合がほとんどです。また、これらの遷移金属錯体触媒がどのように反応基質を活性化するのか?は多くの場合ブラックボックスです。
一方、私たちは、オリジナルのNi(II)–ジアミン錯体の基底状態における電子構造を明らかとしました。さらには実験化学と計算化学を駆使することで、金属キラリティー上におけるエノラート生成 (内圏的活性化) と水素結合活性化 (外圏的活性化) による二重活性化を特徴とする新しい遷移状態モデルを提示しました。ここで得られた知見を基盤として、金属元素の配位圏を多点認識反応場として活用することで、連続不斉点を有する複雑分子の合成法を開発しました。
Reviews: Synlett 2020, 6, 523–534; ファルマシア 2019, 55, 934–938.
Representative papers: Nat. Commun. 2017, 8, 14875; J. Am. Chem. Soc. 2017, 139, 8661–8666; J. Am. Chem. Soc. 2021, 143, 9094–9104.
Chem-Station スポットライトリサーチ: ニッケル錯体触媒の電子構造を可視化
新反応を開拓するためには新しい反応様式での結合形成反応を開拓することが重要です。私たちは、上述のエノラートの化学 (二電子の化学) に加え、一電子を操る研究にも取り組んでいます。本研究では、2-オキシインドールあるいはベンゾフラノン二量体から、持続性ラジカル種(t1/2 > ミリ秒)を発生させる原子効率型ラジカル発生法を確立しました。反応設計に活性種の『寿命: 時間軸』を取り入れることで、i) アゾ化合物由来の反応性ラジカル種(t1/2 < ミリ秒)とのラジカル–ラジカルクロスカップリング、ii) カテコールとの位置多様性クロスカップリングを実現しました。さらには、Pd–カテコレート (二電子) と持続性ラジカル (一電子) とのアニオン/ラジカルカップリング [芳香族ラジカル置換反応 (uphill反応)]、続く酸化的芳香族化 (downhill反応) を経てより安定な最終生成物へと変換されるユニークなエネルギープロファイルを示しました。
Reviews: Pure Appl. Chem. 2024, 96, 5-21; Bull. Chem. Soc. Jpn. 2021, 94, 1066–1079.
Representative papers: ACS Catal. 2020, 10, 12770–12782; Angew. Chem. Int. Ed. 2024, e202405876.
Chem-Station スポットライトリサーチ: 位置多様性・脱水素型クロスカップリング